第8回関東支部発表会(Geo-Kanto2011)の開催報告開催報告

支部発表会グループ リーダー幹事
吉嶺 充俊(首都大学東京)
 

 平成23年11月10日(木),11日(金)の2日間にわたり,山梨県甲府市の山梨県立男女共同参画推進センター「ぴゅあ総合」において第8回関東支部発表会(Geo-Kanto2011)が開催されました.また,12日(土)には支部山梨県グループの主催で見学会を開催しました.
発表会では,一般発表セッション,支部研究委員会セッションの他に,実務分野からの幅広い参加を期待して特定セッションを企画し,また,幅広い年齢層の参加を期待して,若手交流会セッション,および,熟練技術者が語るセッションを企画しました.特定セッションでは「グラウンドアンカー」「宅地耐震擁壁」「東日本大震災」をテーマとして取り上げました.このうち「東日本大震災」は論文や発表の形式は一般発表と同様でしたが,論文募集が時宜を得たこともあり,3セッションにわかれて19件の発表がありました.「グラウンドアンカー」および「宅地耐震擁壁」については,それぞれ社団法人日本アンカー協会および社団法人全国宅地擁壁技術協会との共催として実施し,各協会からの働きかけにより,普段はあまり支部発表会には参加されていない実務者多数の御参加をいただきました.セッションの運営も各協会にお任せし,宅地耐震擁壁セッションでは国土交通省企画専門官の基調講演やパネルディスカッションが行われました.これらの特定セッションでは,論文投稿をパワーポイント画面縮小版の形式でも受けつけ,執筆のしやすさの点から好評でした.若手交流会は企画総務グループにより運営され,今回で3回目ですが,昨年度より,支部発表会でのセッションとして同時開催しているものです.計画・調査・設計・施工・維持管理の各分野からコーディネータをお招きし,実務での体験談等の後,学生を中心とした若手参加者がいくつかのグループにわかれて質疑・意見交流を行いました.熟練技術者が語るセッションは今年度からの新企画で,三嶋信雄氏による東名高速道路の建設当時を話題とした講演とディスカッションで大変な盛り上がりを見せました.プログラム編成の都合上,若手交流会セッションと同時開催となってしまい,学生を含めた若手の参加が少なかったことが残念です.研究委員会セッションでは現在活動中の研究委員会からの活動報告とともに,これからの研究委員会活動の方向性をテーマに意見交換が行われました.発表会1日目の夕方には発表会場に隣接したホテルで懇親会(意見交換会)が開催され,山梨大学ワインや貴重な地元ワインを楽しむとともに,参加者が多かった大学の学生グループによる自己紹介や意見・感想の発表で大いに盛り上がりを見せました.この発表会を開催するにあたり,参加者各位はもとより,関東支部山梨県グループをはじめ多方面の皆様にご協力をいただきましたことを感謝申し上げます.
 ところで,関東支部発表会も今回で8回をかぞえ,開催地も関東支部に属する一都七県を一巡したところから,ひとつの区切りであると考えられます.これまでの開催概要を表1と図1にまとめてみました.発表会の名称は第3回までは「関東支部研究発表会」でしたが,研究以外の工事事例等の発表も幅広く取り入れるべく,第4回からは「関東支部発表会」としています.第2回までは1日間での開催でしたが,発表数が大幅に増加した第3回からは2日間にわたる開催となっています.1日間での開催とした方が参加しやすく人的に密度の濃い交流が可能ですが,同時進行のセッションが多くなってしまうという問題点があります.第5回は2日目が土曜日でしたが,そのほかはいずれも平日の開催でした.休日の方が会場確保と会場費削減の点から大変に有利である一方,出張手続きがとりにくいという御意見が聞かれます.開催時期をみますと,関東支部が設立された第1回は年度末の開催でしたが,そのほかは10月末から11月の開催(論文締め切りは9月末から10月初ごろ)となっています.これは,地盤工学研究発表会や土木学会全国大会の開催時期との関連上,参加者にとって便利な設定であると思われます.各県持ち回りの魅力には捨てがたいものがありますが,今後もし参加者数が増大した場合には,会場確保や運営の面から開催地が限られてくることも考えられます.来年度は再び東京にて開催することが検討されております.来年度以降も支部発表会としての特色を生かしつつ,より多くの方々に御参加いただけるよう,会員の皆様の御支援・御協力をよろしくお願い申し上げます.

   

           写真1.会場受付                  写真2.一般発表セッション

           

         写真3. 若手交流会セッション            写真4.特定セッション「宅地耐震擁壁」

          

         写真5. 懇親会(意見交換会)             写真6.会場と甲府駅の間にシャトルバスを運行

表1.これまでの関東支部発表会の開催概要

回数

年度

開催場所

参加者数

論文数

開催報告
(ニューズレター)

第1回

2004

東京都文京区(JGS会館)

53

26

No.6,  pp.4-5.

第2回

2005

茨城県水戸市(茨城大学)

80

52

No.7,  pp.2-3.

第3回

2006

神奈川県横浜市(関東学院大学)

111

No.11, pp.5-6.

第4回

2007

群馬県前橋市(県市町村会館)

126

No.14, pp.3-5.

第5回

2008

千葉県船橋市(日本大学)

117

No.16, pp.5.

第6回

2009

栃木県宇都宮市(県総合文化センター)

232

147

No.19, pp.7-9.

第7回

2010

埼玉県さいたま市(大宮ソニックビル)

194

131

No.23, pp.4-10.

第8回

2011

山梨県甲府市(ぴゅあ総合)

184

132

No.26.

参考事項:「技術報告のお勧め―関東支部発表会 (Geo-Kanto)へのお誘い―」(太田秀樹,他)ニューズレターNo.23, pp.1-2.
「公益社団法人地盤工学会におけるGeo-Kantoのあり方」(赤木寛一)ニューズレターNo.22, pp.1-2.
「地盤工学会関東支部Geo-Kanto2011に参加」社団法人全国宅地擁壁技術協会  会報 ようへき  Vol.73, pp.11-12.
「地盤工学会関東支部発表会講演集割引提供のご案内」 http://www.jiban.or.jp/kantou/event/GeoKanto/ronbun.htm

図1.関東支部発表会の参加人数と論文投稿数の推移

最後になりましたが,今年度も若手発表者を対象として下記の優秀発表者賞を決定いたしましたので,受賞者のコメントとともに報告させていただきます.

第8回 地盤工学会関東支部発表会 優秀発表者賞

青野泰久 (横浜国立大学)「孔底三軸試験におけるメンブレンゲージセンサーの開発とその適応性の検討」
受賞コメント:この度は,地盤工学会関東支部より「Geo-Kanto2010 優秀発表者賞」を賜りまして,大変うれしく思っております. このような賞を頂くことができたのは,指導教員の谷和夫教授のおかげであると思います.私は今回,孔底三軸試験の小型化,ひずみの計測機器の簡略化に向けて開発されたメンブレンゲージセンサーの適応性の実験的な検討についての発表を行いました.従来の方法では泥水中でも接着可能な水中接着剤を用い,ひずみゲージを供試体に貼り付けていましたが,水中接着剤の固化時間が長く,施工性が良くないことが課題としてあげられていました.私はこのような課題に対し,あらかじめ地上でメンブレンにひずみゲージを貼り付け,メンブレンと供試体との校正関係から供試体のひずみを求める方法を提案し,試験の簡略化を行いました.今後はさらに精度の高いひずみの計測機器の作製の検討を行いたいと思います.賞を頂いたことを励みに,今後も精進していきたいと思います.
阿部聡 (茨城大学)「薬液注入対象地盤における粒度分布および細粒分含有率を変化させた薬液固結土供試体の作製方法と一軸圧縮強さ」
受賞コメント:この度は,Geo-Kanto2011において優秀発表者賞を授与頂き,誠に有難うございます.私が発表させていただいた論文は「薬液注入対象地盤における粒度分布および細粒分含有率を変化させた薬液固結土供試体の作製方法と一軸圧縮強さ」という表題です.薬液注入工法では,粒度組成の差異が改良効果に及ぼす影響を定量的に把握することが重要であります.本研究では,地盤支持力の低下に起因した陥没を例に,粒度分布を変化させた供試体作製方法を提示し,細粒分含有率の差異が一軸圧縮強さに及ぼす影響について調査しました.今後,様々な検討を経て,薬液注入工法の更なる発展のために微力ながら貢献することが出来れば良いと考えております.最後になりましたが,本研究の発表にあたり,教員の皆様,研究室の仲間,そして学外の多くの方々に貴重なご意見やアドバイスを頂きました.心より感謝申し上げます.今回の受賞を励みに,慢心することなく日々精進していく所存であります.今後とも,ご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします.

池亀温子 (東京都市大学)「SDS試験による地盤判定の試み」

石井香織 (横浜国立大学)「計測パラメータが粗粒材のPIV測定結果に及ぼす影響」
受賞コメント:この度は,Geo-Kanto2010において優秀発表者賞を頂き,誠に有難うございます.全く予想していなかったので大変驚きましたが,このような賞をいただけたことを大変嬉しく光栄に思います.これも寝る間を惜しんでご指導して下さいました早野公敏准教授のおかげです.アドバイス等をいただいた鉄道総合技術研究所の村本勝巳様,伊藤壱記様にも心より感謝申し上げます.一般的な鉄道軌道である砕石とまくらぎから構成されるバラスト軌道は,鉄道交通に伴い沈下が生じるため,軌道の効率的な維持管理のためにもバラストの変形特性を解明することが期待されております.そのため,模型試験等で載荷試験などが行われており,その際のバラスト等の粗粒材の変形計測において,近年PIVの活用が図られ始めています.今回,PIVにより粗粒材の変形を精度よく計測するシステムを確立するための検討を行いました.主にPIV計測で設定する各種パラメータの影響について調べました.今後はこのPIVの計測システムを活用して,模型試験レベルでバラスト軌道の変形特性について研究を進めていきたいと考えております.
井上大輔 (東急建設株式会社)「月面土のう積み擁壁の安定性解析と遠心模型実験」
受賞コメント:この度は優秀発表者に選んでいただきありがとうございます.この研究は,月面基地をつくる方法を定量的に検討した,世界でもめずらしい研究です.アイデアレベルでは数多の提案がありますが,いずれも実現性の面で課題を抱えていました.そこで当社は,土のう積み擁壁で円筒を覆うというシンプルな構造を考案しました.今回の発表では,その擁壁の安定性を遠心模型実験で確かめました.現在はその結果をもとに,土のう擁壁構築ロボットの試作を進めています.この研究はJAXA月面ロボットチャレンジの一環として,多くの方々のご協力で成立しました.東京都市大学の末政先生には実験装置や実験計画においてご指導頂きました.同研究室の田中先生には遠心模型実験のノウハウをご教授頂きました.JAXAの西田氏と上野氏には月土壌や宇宙システムに関して専門的な助言を頂きました.みなさまに御礼申し上げます.このプロジェクトが地盤屋とロボット屋をつなぐきっかけとなれば望外でございます.
沖原穂高 (早稲田大学)「アスファルト混合物の作成におけるマーシャル試験と郡司法の比較」
受賞コメント:今回はこのような賞を受賞して驚いております.これもいつも指導してくださった赤木教授をはじめ,郡司法について解説してくださった郡司先生,マーシャル試験方法を指導してくださったNIPPO(株)の田辺様,そして同じ研究班の佐藤さん,Michaelさんのおかげです.今回の受賞を励みに今後もアスファルトについて研究していきたいと思います.日本のアスファルト舗装は主にマーシャル試験を用いて規格されていますが,いつか容積配合設計で論じられるのではないかと考えています.容積配合設計を用いることでアスファルト舗装の課題である流動現象を防ぐことができます.今後アスファルトを研究する機会があれば流動現象について研究し,アスファルト舗装の改善に貢献できればと思います.今回はありがとうございました.

加藤達也 (中央大学)「浸透力相似模型実験による飽和地盤中にある杭の引き抜き支持力の変位速度依存性」

川村淳 (ケミカルグラウト株式会社)「小規模建築物を対象とした盤状地盤改良による耐震補強の研究」
受賞コメント:この度は,第8回地盤工学会関東支部発表会におきまして優秀発表者賞という栄えある賞を頂きまして大変光栄に思います.私が発表した「小規模建築物を対象とした盤状地盤改良による耐震補強の研究」は,東日本大震災の際に被災した戸建住宅の今後の液状化対策について検討したものです.地盤改良に関しては,震災以前には比較的大型の土木構造物を対象とする検討が多く,小規模の建築物に対する検討は決して多くはありませんでした.小規模の建築物を対象とした場合,一般の住民が発注者となる場合もあるため,限られた費用の中から最適な方法を提案する必要があり,今まで以上に費用対効果を考える必要があります.そこで,本研究では,液状化層全体の改良ではなく改良範囲を限定した対策を考えました.今回は特定の対策についてその効果を検証したものとなりますが,今後も検討を続け,より良い対策案を提案していきたいと思います.

鈴木あゆみ (筑波大学)「粘土粒子の凝集に関するミクロな視点での数値計算」

塚原健太 (群馬大学)「東日本大震災:仙台市緑ヶ丘3丁目の宅地変状(地表面と家屋の被害分布の観察)」

富森洋 (早稲田大学)「石膏粉末を用いた建設発生汚泥の中間処理に関する実験的研究」
受賞コメント:今回の発表会におきまして優秀発表者に選んでいただきましたことを心から光栄に思っております.学会というものに参加するのが今回が初めてであったためとても緊張し,自分たちの研究についてしっかり発表できていたか心配しておりましたがこのような賞をいただき,大きな自信につながりました.また自分以外の方々の発表を聞き,研究に関することはもちろんのことながら発表に関することや自分たちとは違う視点からの考察など大変勉強になりました.まだまだ研究者として未熟であり,研究が不十分である部分もありましたので,今回の発表会で学んだことやご指摘いただいた部分につきまして今後さらに精進していきたいと思っております.自分は学部卒業後就職の道を選んだために現在行っている研究を引き続き行っていける期間は短いのですが,後悔の残らぬよう精一杯取り組んでいきます.この度はこのような賞をいただき誠にありがとうございました.

中山つくし (筑波大学)「Laser Aided Tomographyを用いた地盤模型中の間隙流体の可視化」

星将太 (茨城大学)「東北地方太平洋沖地震における液状化発生地点のマッピング方法の提案」
受賞コメント:この度は,第8回地盤工学会関東支部発表会Geo-Kanto2011において優秀発表者賞にご選出いただき,真にありがとうございます.私が発表させていただいた「東北地方太平洋沖地震における液状化発生地点のマッピング方法の提案」に関する研究は,液状化発生地点の特徴を把握し,防災に貢献できる研究であり,新たな防災マップ作成につながるものであると考えています.今回,初めて論文を執筆することで,自分の研究について,改めて深く考えました.その結果,多くのことに気づくこととなりました.この研究を通して,液状化というものが,自分の思っている以上の被害を被っており,甚大なものであることを,研究を進めるにつれて知ることができ,さらに深く勉強したいという気持ちが強くなりました.今回,このような賞をいただけることができたのは,ご指導いただいた指導教員の皆様および研究室の皆様のおかげであると思っています.これを励みに,さらに研究をがんばっていこうと思います.ありがとうございました.

山田卓 (東京大学)「2011年クライストチャーチ地震における地盤被害について」

渡辺綱 (東京電機大学)「東日本大震災により被災した造成宅地盛土について」
受賞コメント:今回の学会は私にとって学生としての最後の学会の参加であったため,最後に優秀発表者に選ばれ大変嬉しく思います.3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震から今まで多くの被害踏査を行ってきました.東京湾岸から始まり,茨城県や福島県,宮城県のいくつかの団地を踏査し,実際に見て感じたこと,実験を行った結果などを皆さんに分りやすく発表できたことは私にとって大きな自信になりました.また,土木技術者を目指す身としては今回の地震を体験し,学んだことは机上では決して得られないことであると思います.地盤工学における技術者としてはまだまだ未熟ですが,今回の地震よる被害を糧により一層,土木技術者として勉学に取り組み,一流の技術者となれるよう努力を続けて行きたいと思います.今回,優秀発表者に選んで頂き,誠にありがとうございました.

小栁智行 (中央大学)「地震時斜面崩壊開始のエネルギー閾値についての模型実験」

橳島優 (筑波大学)「室内摩耗試験による鉄道バラストの3次元形状特性変化に関する基礎的検討」
受賞コメント:研究室の先輩に,「メールを見てみろ,大変なことになってるぞ」と言われ,私は何かやらかしたかなと不安な気持ちでメールを開けてみると,私が優秀発表者に選ばれた旨のメールが届いていました.最初は驚きでしたが,時間が経つにつれ嬉しさが込み上げてきました.今回のGeo-Kanto 2011は,私にとっては初めての学会での発表でした.さらに,論文提出時には,まだ研究を始めて2ヶ月弱しか経っておらず,十分な成果が出ないまま発表しても大丈夫だろうか,また,参加者からとてつもなく難しい質問が来たらどうするか等心配でした.しかし,発表当日は気持ちを切り替え,当たって砕けろの精神で臨みました.今考えるとそれが奏功したのかもしれません.今回優秀発表者に選んでいただいたことは嬉しく思い,感謝しております.しかし,これに満足することなく,次回のGeo-Kantoにおいても優秀発表者に選ばれるよう今後も努力します.